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1番の失敗
皆様は、仕事の失敗で思い出す事はありますでしょうか?
私は専門学校を卒業し、社会に出てちょうど20年が経ちます。
その20年の仕事の中で沢山の失敗をしてきました。
そしてこの先も、チャレンジする限り失敗と反省を重ねていくのだと思っています。
数多くある失敗の中にも、小さなものから大きなものまでありますが、とんでもなくやらかした失敗というものは、その瞬間の画が鮮明に脳裏に残り、この先2度と起こしてはならないと心に刻まれるものです。
今までで1番の失敗
私が今までで1番失敗したという思い出は、24歳の時に、先輩スタイリストの美容業界誌のヘアスタイル撮影に、アシスタントとして同行した時の出来事です。
その業界誌は、美容師では知らない人は皆無であるほど、掲載されることは業界の中で注目されているという証となります。
その先輩は初めての業界誌撮影という事で、数ヶ月前からモデル選び、衣装、ヘアスタイルのイメージを念入りに準備していました。
撮影日の前夜、持っていく用具を大きな2つのキャリーに先輩と詰めていました。先輩は、いよいよ明日は大一番という事で、ピリピリした緊張感が漂い、プレッシャーと闘っている姿がヒシヒシと感じます。
準備の最中、ヘアスタイリング剤を約20種類机に並べ、使用するスタイリング剤の確認をとり、キャリーに入れていくというシーンがありました。
その時先輩は、スタイリング剤よりも衣装の方に気を取られていた為、手短に指示を出しその場を立ち去りました。
指示されたものを全て入れ終えた時、
「これは、もしかしたら使うかもしれない?」
と感じたスタイリング剤が私の目の前にありました。
あれ?さっき言ったかな?と思い、確認しようと思ったのですが、あまりの先輩のピリピリ感に怖気付き、そのスタイリング剤の確認を取らず、自分の判断で外す事にしたのです。
その甘さが大失敗を招いたのです。
血の気が引いた瞬間
当日、早朝にサロンでモデルさんの仕込みを行い、準備が整った所で表参道からタクシーに乗って麻布のスタジオへ向かいました。
撮影ではタイムスケジュールが予め決まっていて、本番前のヘアーの最終仕込みは30分程で仕上げていきます。
その30分は、一見和やかな雰囲気に見えますが、一瞬でもテンポを崩せないオーケストラの様な気迫があります。
アシスタントの私は、先輩の手と目の動きに注目しながら、次に何を使うのか?どうしたいのか?に神経を研ぎ澄ませます。
その時、
「パウダーワックス!」
と先輩の一言。
私が前日、もしかしたら使うかもしれないと感じたあのスタイリング剤でした。
その瞬間、今までのリズムがトンと止まったような空気が流れました。
私の表情を見つめる先輩。
その瞬間、事態を察し、別のスタイリング剤に咄嗟に変更し、何事もなかったかのように完成まで仕上げた先輩の姿がそこにありました。
撮影が終了し、サロンまでのタクシーの帰り道、先輩はモデルさんと和やかに話しながら終始笑っていました。
サロンに戻り、少し団欒した後、モデルさんが帰られました。
2人きりになった直後、先輩が突如目に涙を溜めながら、私に言葉を投げかけました。
その言葉の衝撃が、その後の私の礎となっています。
「やっと掴んだチャンスを、あなたはどうしてくれるの。」
鳥になって、どこかへ飛んでいきたかった
たった1つのスタイリング剤を、私の勝手な判断で持っていかなかった事で、先輩はイメージするヘアスタイルを表現する事が出来ませんでした。
巡ってきたチャンスに、全てをかけたいという先輩の想い。
私は、取り返しのつかないことをしてしまったと、その場を逃げ出したい気持ちでした。
15年以上経った今でも、あの光景ははっきりと覚えています。
そして、あの失敗からの教訓は、私の価値観となっています。
・もしかしたらには、可能性がある。
・何事も決めつけない。絶対はない。
・チャンスは、チャレンジしている人間に流れてくる。
そのスタイリング剤を見る度に、私の1番の失敗が蘇り、背筋が伸びる想いです。